倫理勧告見解

4.医学研究及び研究発表における倫理的問題に関する見解および勧告(2006.12.1)

会員各位

近年、新しい医学研究領域の発展により、研究・医療および医学教育の従事者はそれぞれの立場で必要に応じた倫理的対応が迫られています。日本外科代謝栄養学会理事会では、本学会における今後の投稿論文や学術集会での医学研究発表における倫理的問題に関して下記のごとく見解を示し、生命倫理に関する問題について広く会員の理解を深め、注意を喚起することにいたしました。すべての医学研究においては、研究自体の倫理性は言うに及ばず、患者さんの権利に関しても十分に配慮されるべきであります。

本会会員の皆様におかれましては、特にヒトを対象とした医学研究を行う場合には、患者さんのプライバシーの保護やインフォームドコンセントなどに関する倫理的問題に十分配慮されますようお願いいたします。

医学研究発表における倫理的問題に関しては、以下のいずれかを満たすものとする。

A. ヒトを対象とした研究:

  1. ヒトゲノム・遺伝子研究では「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」による規定を遵守したもの。
    (文部科学省、厚生労働省および経済産業省)
    (平成16年12月28日全部改正、平成17年6月29日一部改正)
  2. 上記以外の研究で各施設の倫理審査委員会の承認が必要な場合、その承認を得たもの。
  3. 倫理審査委員会の承認を必要としないが、ヘルシンキ宣言(2000年版)の精神を遵守したもの(但し、第13条の条文を除く)。

B. 動物を対象とした研究:

動物実験に関する審査委員会の承認を得たもの。

C.ヒト・動物以外の研究:

広い意味での生命倫理について配慮を要する。

D.研究倫理と不正行為

総合的な研究倫理を理解し、不正行為などが起こらないように十分留意する。

[解説]

ここでは医学研究を、 ヒトを対象とした研究(個人を特定できるヒト由来の材料及び個人を特定できるデータの研究を含む)とヒト以外を対象とした研究に分けます。また、ヒトを対象とした研究では「ヒトゲノム・遺伝子研究」と「これ以外の研究」とに分けます。

A. ヒトを対象とした研究:

ヒトゲノム・遺伝子研究では「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」 (文部科学省、厚生労働省および経済産業省) (平成16年12月28日全部改正、平成17年6月29日一部改正)

(http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/genomeshishin/05062701.htm)による規定があり、これを熟読し内容を理解した上で遵守する必要があります。 この場合、 各施設での倫理審査委員会の承認が必要です。 なお、 現時点における過渡期的問題として、 本指針が示される以前に終了した研究については、 上記指針で示されている「細則1(本指針施行前の研究に関する細則) 本指針施行前に既に着手され、 現在実施中のヒトゲノム・遣伝子解析研究に対しては適用しないが、 可能な限り本指針に沿って適正に実施することが望まれる」に従って下さい。

「これ以外の研究」についても「臨床研究に関する倫理指針」(厚生労働省) (平成15年7月30日) (http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/07/tp0730-2.html) に沿って、 原則として各施設倫理審査委員会の承認が求められます (2.として提示しました)。

また疫学研究に関しては「疫学研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省) (平成16年12月28日全部改正、平成17年6月29日一部改正) (http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/epidemiological/04122801.htm) による規定があり、これを熟読し内容を理解した上で遵守する必要があります。「人口統計に関する研究」やインフォームドコンセントを得て治療を目的に行った症例の「症例検討(症例報告も含む)」などでは、倫理審査委員会の審査を必要としない場合もありますが*、 この場合も世界医師会ヘルシンキ宣言(2000年版:日本語訳は日本医師会より公表されている。さらに2004年10月注釈追加。 日本医師会ホームページ参照、http://www.med.or.jp/wma/helsinki02_j.html)(第13条の倫理審査委員会への実験計画書の提出を義務づけた条文以外) の精神に十分配慮したものであることが求められます(3.として提示しました)。 なお、 症例報告に関しては「症例報告に関する患者プライバシー保護に関する指針」(外科関連学会協議会) を遵守して下さい。

* : 症例検討 (症例の集計による研究発表) や症例報告などは、一般に実地医療の結果報告であり、ヘルシンキ宣言が対象としている‘medical research involving human subject’には含まれないと考えます。

B. 動物を対象とした研究

ヒト以外に動物などを対象とした医学研究の場合においても、 各施設における審査委員会の承認が必要であり、 「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(日本学術会議 2006年6月1日、http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/data_20_5.html)を遵守する必要があります。

C.ヒト・動物以外を対象とした研究

医工学領域や動物以外の生物に関する研究領域では、倫理的問題を考慮する必要がないものがありますが、 広い意味で生命倫理について (化学兵器製造の問題地球環境問題などにも) 十分配慮することが求められます。

D.研究倫理と不正行為

科学者の規範の基礎である、研究活動における人、 社会、 自然に対する影響、 安全性などの評価を包含した総合的な研究倫理を理解し、 研究の遂行および成果の発表においては、 不正行為として捏造 (Fabrication: 存在しないデータの作成)、 改ざん (Falsification:データの変造、偽造)、 盗用 (Plagiarism:他人のアイデアやデータや研究成果を適切な引用なしで使用) のみならず、 不適切なオーサーシップ、重複発表、引用の不備・不正、 研究過程における安全の不適切な管理、 実験材料の誤った処理・管理、 情報管理の誤りなどが起こらないように十分留意する。

平成18年12月1日
日本外科代謝栄養学会