日本外科代謝栄養学会


JAPANESE SOCIETY for SURGICAL METABOLISM and NUTRITION.


術前絶飲食に関する文献

NEW
タイトル(日本語) 炭水化物を含む経口栄養補助食品(ONS)と経口補水液(ORS)の胃排出速度の検討: 磁気共鳴画像法(MRI)を用いたクロスオーバー試験
タイトル(英語) The Effects on Gastric Emptying and Carbohydrate Loading of an Oral Nutritional Supplement and an Oral Rehydration Solution: A Crossover Study with Magnetic Resonance Imaging
著者名 Makoto Nakamura, Kanji Uchida, Masaaki Akahane,Yasushi Watanabe, Kuni Ohtomo, and Yoshitsugu Yamada
雑誌名、巻:頁 Anesth Analg 2013 (in press)
目的 本邦で術前に使用されている炭水化物濃度18%のONS(アルジネード®ウォーター、ネスレ日本株式会社)と炭水化物濃度2.5%のORS(OS-1®、株式会社大塚製薬工場)の胃排出速度をMRIを用いて比較検討する。
研究デザイン 無作為化二重盲検クロスオーバー試験
エビデンスレベル U
治療環境・施設名 東京大学麻酔科
対象患者 健常成人ボランティア 10名
介入 10時間の絶食、6時間の絶飲後、ONSまたはORSを3分間で500 mL摂取した。試験飲料の摂取前、摂取直後、30、60、90、120分後にMRIを用いて胃内容液量を撮影した。血糖値を摂取前、30、60、120分後に測定した。5日間以上をあけた後、同様の試験を試験飲料を換えて実施した。
主要評価項目(定義) 試験飲料摂取60分後の胃内容液量(主要)。胃内容液量が最大時の50%になった時間と累積症例割合、胃内容液量が2 mL/kg未満、1 mL/kg未満となった時間と累積症例割合、血糖値の推移(副次)。
統計学的手法 Wilcoxon rank-sum test、Dunn test
結果 試験飲料摂取60分後の胃内容液量は、ORS群で平均55.0 mL、ONS群で平均409.2 mLであり、ONS群が有意に多かった (P = 0.0002) 。ORS群は90分後、胃内容液量が全例、1 mL/kg未満であったが、ArW群は120分後でも全例、1 mL/kg未満とならなかった。血糖値はORS群で30分、60分まで、ONS群で30分、60分、120分まで、初期値に比べ増加した。
結論 ORSは胃排出が速く術前飲料に適している。 ONSは胃排出速度がORSと比較して遅く、胃排出速度のバラツキが大きいため、安全性を考慮し個々の必要性に応じて使用されるべきである。
コメント 飲料の種類による胃排出の違いは、これまで呼気試験やエコーなどで評価されてきた。本研究は、MRIという非侵襲的かつ正確な定量により得られたデータであり、先行研究のいずれよりも信頼性の高い結果と考えられる。健常人でONSの胃排出がこれだけ遅れているということは、手術患者ではさらに遅れている可能性がある。本研究は、今後、安全性を考慮した術前飲料の摂取を考える際のエビデンスとなると考える。
作成者 谷口英喜
NEW
タイトル(日本語) 脱水状態は補水状態と比較して痛み関連脳領域の活性を高める
タイトル(英語) Dehydration Enhances Pain-Evoked Activation in the Human Brain Compared with Rehydration
著者名 Yuichi Ogino, Takahiro Kakeda, Koji Nakamura, and Shigeru Saito
雑誌名、巻:頁 Anesth Analg 2013 (in press)
目的 脱水状態が人の脳および認知機能に悪影響を与えることが知られている。本研究では脱水状態が痛みの閾値レベルと痛み反応における皮質の活性化に及ぼす影響を機能核磁気共鳴断層装置(fMRI)を用いて経口補水液を摂取して補水された状態と比較する。
研究デザイン 無作為化クロスオーバー試験
エビデンスレベル U
治療環境・施設名 群馬大学麻酔科
対象患者 健常人男性 5名
介入 脱水群は12時間の絶飲絶食、補水群は12時間の絶食を保ったまま経口補水液(OS-1®、株式会社大塚製薬工場)を2000 mL摂取。その後、両群とも40分間の全身発汗運動を実施、なお、補水群は経口補水液を1000 mL摂取しながら運動した。全身発汗運動終了後、患者の前腕中央部に痛み刺激を加え(寒冷昇圧試験)、fMRIで痛み関連脳領域の活性を評価、さらに痛み閾値(痛みを感じるまでの時間)を評価した。また、計算テスト(内田クレペリン検査)を実施し認知機能の評価をした。
主要評価項目(定義) 痛み関連脳領域の活性(主要)。痛み閾値、認知機能、体重、血圧、心拍数、鼓膜温、尿浸透圧、口渇感、空腹感、不安感等(副次)。
統計学的手法 1-sample t test、repeated-measures analysis of variance
結果 脱水群は、補水群よりも体重が大きく、有意な心拍数上昇、高めの鼓膜温、高い尿浸透圧を呈し、有意に強い口渇感を訴えた。計算テストでは、脱水群で計算作業量の低下が認められた。脱水群で痛み閾値が低下すると共に、fMRIでより広範で大きい痛み関連脳領域の活性化が認められた。一方、補水群では、痛み閾値が上昇し、fMRIで報酬系領域の活性を認めた。
結論 脱水状態は強い口渇感とともに、痛み感覚が敏感になることが脳レベルで確認された。脱水を経口補水液で補正すると口渇感が消失し、報酬系領域を介して痛み感覚を癒すことが脳画像として示された。
コメント 脱水状態は口渇をはじめとした不快感を呈する。これを術前にあてはめると、術前脱水状態は患者の満足度を低下させることになる。脱水状態は痛みの閾値を下げ、痛み関連脳領域を活性化させる。これを術後にあてはめると、術後の痛みに起因する不快感は脱水状態により増強されることになる。術前術後の脱水予防は患者の満足度向上には欠かせない項目であると考えられる。ただし、経口補水液以外の飲料での検討も今後は必要と考える。
作成者 谷口英喜
タイトル(日本語) 成人における術前の絶飲食に関するレヴュー(コクラン)
タイトル(英語) Preoperative fasting for adults to prevent perioperative complications (Review)
著者名 Brady M, Kinn S, Stuart P
雑誌名、巻:頁 Cochrane Database Syst Rev 4, 2003
目的 様々な術前飲食のレジメの違い(量、時間、摂取内容など)が合併症(誤嚥、嘔吐など)の発症率や患者満足度(空腹感、口渇感など)に与える影響をシステマチックレヴューで検討する。
研究デザイン systematic reviews
エビデンスレベル T
治療環境・施設名 手術が実施されている病院
対象患者 術前患者(但し、逆流や閉塞の危険性のない、全身状態の良い患者)
介入 絶飲食期間を長くした群と、2-3時間前までの飲水を許可した群、飲料の量や種類を変えた群
主要評価項目(定義) 麻酔導入に伴う逆流、誤嚥の頻度、死亡率
統計学的手法 38のRCTを検討
結果 健常人においては、術前夜より絶飲食にした場合でも絶飲水期間を短縮した場合でも、逆流や誤嚥の発生頻度は変わらず、関連した死亡率の増加も認められないと述べられた
結論
コメント 術前の絶飲食は胃内容量や酸度を高めないことで逆流や誤嚥を防ぐ目的で行われてきた行為であるが、多くのRCTにより飲食物摂取の時間と内容を守ることにより安全であることが証明されている。これらの内容はCochrane Libraryでは毎年見直されているが、最新の2010年の改訂でも結論は2003年のCochrane Libraryレビューと同じである。
作成者 谷口英喜
タイトル(日本語) 米国麻酔科学会が公表している術前絶飲食に関するガイドライン
タイトル(英語) Practice guidelines for preoperative fasting and the use of pharmacologic agents to reduce the risk of pulmonary aspiration: application to healthy patients undergoing elective procedures: an updated report by the american society of anesthesiologists committee on standards and practice parameters.
著者名 Task Force on Obstetric Anesthesia
雑誌名、巻:頁 Anesthesiology. 2011 Mar;114(3):495-511
目的 麻酔管理の質と安全性を向上させる、成人だけでなく小児の麻酔に際しても、ガイドラインを示す、薬剤の使用により誤嚥が防げるのか検討する
研究デザイン systematic reviews、guideline
エビデンスレベル T
治療環境・施設名 アメリカ
対象患者 術前患者(但し、逆流や閉塞の危険性のない、全身状態の良い患者)、小児
介入  
主要評価項目(定義) 麻酔導入に伴う逆流、誤嚥の頻度、死亡率
統計学的手法 ガイドライン
結果 成人においてはclear fluids(水、ミルクを入れないコーヒー紅茶、繊維の入っていないジュース、炭酸飲料)を例に、2時間前までの摂取を安全と認める。母乳は4時間前まで、人工乳は6時間前まで摂取を認める。固形食はlight mealなら6時間前、fatty mealなら8時間前までとする。蠕動促進剤や胃酸分泌抑制剤、抗コリン剤、制吐剤の使用で誤嚥の頻度に変化はないのでルーチンの使用は推奨しない。
結論
コメント 数年に1度見直されるガイドラインである。飲料に関しては、日本にも適応できる内容である。しかし、固形物に関しては日本食に当てはめられないので今後の検討が必要である。薬剤に関しては、過去にpremedicationと称して使用してきた薬剤の使用を見直すevidenceが示されている。
作成者 谷口英喜
タイトル(日本語) 妊産婦における麻酔科ガイドライン(その中で飲食に関する項目のみここではとりあげる)
タイトル(英語) Practice guidelines for obstetric anesthesia: an updated report by the American Society of Anesthesiologists
著者名 Task Force on Obstetric Anesthesia.
雑誌名、巻:頁 Anesthesiology 106 :843-63,2007
目的 過去のガイドラインは健常成人に対するガイドラインであったが、妊産婦に関する絶飲食に関してもガイドラインを定める
研究デザイン systematic reviews
エビデンスレベル T
治療環境・施設名 アメリカ
対象患者 妊産婦、異常分娩、胎児以上も含め
介入  
主要評価項目(定義) 麻酔導入に伴う逆流、誤嚥の頻度、死亡率
統計学的手法 ガイドライン
結果 液体飲料に関しては、妊産婦も他の症例と同じように術前2時間前までのclear fluids摂取は安全である。しかし、妊産婦では胎児の心音が確認できないような状況では術前飲水は危険であると付け加えられている。一方、固形物に関しては液体飲料と扱いがことなり、妊産婦では術前の摂取は控えることが望ましい。食物の種類にもよるが、待機的帝王切開術でも術前6-8時間は絶飲食期間を設けることを推奨する。
結論
コメント これまで、妊産婦では、GERの遅れの懸念や胃液量増加を危惧して術前の絶飲食期間を長く設定する傾向にあった。米国およびEU加盟国の術前飲食期間に関するガイドラインでも当初は、救急疾患と並んで対象から除外されていた。しかし、これらにもevidenceはなく、本ガイドラインの公表により妊産婦への適応も明らかにされた。
作成者 谷口英喜
タイトル(日本語) ヨーロッパ麻酔科学会が公表している術前飲食のガイドライン
タイトル(英語) Perioperative fasting in adults and children: guidelines from the European Society of Anaesthesiology.
著者名 Smith I, Kranke P, Murat I, Smith A, O’sullivan G, Sreide E
雑誌名、巻:頁 Eur J Anaesthesiol. 2011; 28: 556-69.
目的 ヨーロッパにおける術前飲食に関する基準を定める
研究デザイン systematic reviews 1950-2009年までにpublish された論文(Medline 3714本、Embase3660本)
エビデンスレベル T
治療環境・施設名 ヨーロッパ
対象患者 術前患者(但し、逆流や閉塞の危険性のない、全身状態の良い患者)
介入 絶飲食期間を長くした群と、2-3時間前までの飲水を許可した群、飲料の量や種類を変えた群
主要評価項目(定義) 麻酔導入に伴う逆流、誤嚥の頻度、死亡率
統計学的手法 ガイドライン
結果 clear liquids を術前2時間前まで、固形食は6時間前まで許容する。特に高濃度炭水化物含有飲料の安全性と術後インスリン抵抗性を軽減する有効性が付け加えられた。肥満、糖尿病患者、妊産婦、食道逆流のある患者にも同様に適応できる。経口補水療法も高濃度炭水化物含有飲料も術前の使用は安全で、患者満足度を向上させる。術前の喫煙、ガムの摂取は手術をおくれさせる理由にはならない。
結論
コメント 基本的に諸外国のガイドラインと同様の内容であるが相違点として下記の項目が特徴あり。ERASのおひざ元の影響か、高濃度炭水化物含有飲料に関する記載が多い。
糖尿病患者も同様に術前飲水を許容しても良い。チューインガムの摂取は問題ない。
など、踏み込んだ内容のガイドラインとなっている。
さらに付け加えると、われわれから発信した術前経口補水療法を大きくとりあげてくれている。
作成者 谷口英喜

周術期輸液に関する文献

タイトル(日本語) 腹腔内手術後の予後に対する術中輸液管理の効果
タイトル(英語) Effect of Intraoperative Fluid Management on Outcome after Intraabdominal Surgery
著者名 Nisanevich V, Felsenstein I, Almogy G, Weissman C, Einav S, Matot I.
雑誌名、巻:頁 Anesthesiology. 2005 Jul;103(1):25-32.
目的 術中輸液量の違いによる腹部手術後の予後を検討し、適切な術中輸液量を検討すること
研究デザイン RCT
エビデンスレベル Level I
治療環境・施設名 Hadassah University Medical Center, Jerusalem, Israel
対象患者 予定腹部手術患者
介入 術中輸液
主要評価項目(定義) 術後死亡数、合併症発生数(主要)。消化管機能、在院日数、体重、アルブミン濃度、ヘマトクリット値(副次)
統計学的手法 analysis of variance for repeated measurements: post hoc analyses; Newman-Keuls test
結果 水分制限によって合併症が有意に減少。消化管機能回復も改善。在院日数の減少。体重の増加も少なく、アルブミン濃度とヘマトクリット値も高値。
結論 術中輸液を制限することによって合併症が減少し、在院日数も減少した。
コメント 術後3日間の輸液量には差はなし。2種類の輸液量の設定しかないため、さらなる検討が必要。
作成者 石橋 生哉
タイトル(日本語) 結腸切除後の胃腸機能の回復に関する水分と塩分出納の効果:無作為比較試験。
タイトル(英語) Effect of salt and water balance on recovery of gastrointestinal function after elective colonic resection: a randomised controlled trial.
著者名 Lobo DN, Bostock KA, Neal KR, Perkins AC, Rowlands BJ, Allison SP.
雑誌名、巻:頁 Lancet. 2002 May 25;359(9320):1812-8.
目的 結腸切除後の水分と塩分の投与制限が胃腸機能回復に及ぼす効果を検討すること
研究デザイン RCT
エビデンスレベル Level U
治療環境・施設名 University Hospital, Nottingham, UK
対象患者 予定手術 結腸癌患者
介入 術後輸液
主要評価項目(定義) 第4病日における液体と固形物の胃内容排出時間(主要) 術後在院日数、ガスと便の術後排出までの期間、輸液期間、固形物摂取時期(副次)
統計学的手法 Mann-Whitney U test
結果 第4病日における液体と固形物の胃内容排出時間は有意に水分塩分制限群で短く、術後在院日数、ガスと便の術後排出までの期間、輸液期間、固形物摂取時期についても水分塩分制限群で良好であった。
結論 結腸切除後の水分塩分の過剰投与は3kgの体重増加をきたし、胃腸機能回復が遅延し、在院日数が延長した。
コメント 症例数は少ないが、消化管運動と術後輸液の前向き試験として胃内排出時間を検討した重要な論文。
作成者 石橋 生哉
タイトル(日本語) 周術期の輸液療法に対するこれまでの知見にたいする重要な評価
タイトル(英語) Liberal' vs. 'restrictive' perioperative fluid therapy--a critical assessment of the evidence.
著者名 Bundgaard-Nielsen M, Secher NH, Kehlet H.
雑誌名、巻:頁 Acta Anaesthesiol Scand. 2009 Aug;53(7):843-51.
目的 これまでに行われた周術期の輸液療法について紹介し、適切な周術期輸液療法を推奨する
研究デザイン systematic review
エビデンスレベル LevelT
治療環境・施設名  
対象患者 腹部手術患者、大腸手術患者、関節手術患者
介入 周術期輸液療法
主要評価項目(定義) 周術期の輸液制限が術後予後に及ぼす効果
統計学的手法  
結果 7つのRCTのうち3つの研究で輸液制限による合併症と在院日数の改善を認めたが2つの研究では差はなく、2つの研究では副次的な項目の一部に差を認めた。
結論 本研究では、適切な周術期輸液療法について言及できないが、細胞外液の喪失を補い、過剰な輸液を避け、適切な心拍出量を保つことが重要。
コメント 研究によって取り入れている周術期管理法が異なるため同じ土俵で比較が困難。
作成者 石橋 生哉
タイトル(日本語) ERASで腹腔鏡下大腸手術を行い適切な輸液を行った患者の術中酸素運搬量:麻酔法の違いによる効果
タイトル(英語) Intra-operative oxygen delivery in infusion volume-optimized patients undergoing laparoscopic colorectal surgery within an enhanced recovery programme: the effect of different analgesic modalities.
著者名 Levy BF, Fawcett WJ, Scott MJ, Rockall TA.
雑誌名、巻:頁 Colorectal Dis. 2012 Jul;14(7):887-92.
目的 麻酔方法の違いが酸素運搬量に及ぼす影響と酸素運搬量の違いが縫合不全のは発生に及ぼす影響について明らかにする.
研究デザイン RCT
エビデンスレベル Level II
治療環境・施設名 Minimal Access Therapy Training Unit, Post Graduate Medical School, University of Surrey
対象患者 大腸癌患者
介入 麻酔方法
主要評価項目(定義) 術中酸素運搬量,縫合不全発生率
統計学的手法 one-way ANOVA,χ2 test
結果 麻酔方法により術中酸素運搬量に有意差は認めず,縫合不全発生率にも差はなかった.酸素運搬量が400 ml / min / m2未満の患者群に有意に縫合不全の発生率が高い.
結論 腹腔鏡下大腸手術に対してERASで管理し,術中経食道心エコーを用いて輸液量の適切な管理を行った場合に,腰椎麻酔,硬膜外麻酔,PCAの三種類の麻酔方法での酸素運搬量には差がなかったが,酸素運搬量が少ない症例群で縫合不全の発生が有意に多かった.
コメント 術中酸素運搬量が術後の縫合不全発生に関与することを示す興味深い論文であり,輸液バランスを一回拍出量を測定しながら行っても酸素運搬量の違いが縫合不全発生に関与するのであれば,周術期輸液管理がよりいっそう重要なものとして認識される.
作成者 石橋 生哉
タイトル(日本語) 開腹予定手術時の輸液療法に関するRCTのメタ解析:適切な輸液バランス
タイトル(英語) A meta-analysis of randomised controlled trials of intravenous fluid therapy in major elective open abdominal surgery: getting the balance right
著者名 Varadhan KK, Lobo DN.
雑誌名、巻:頁 Proc Nutr Soc. 2010 Nov;69(4):488-98.
目的 開腹予定手術時の輸液療法に関するRCTが多く発表されているが,その輸液療法の分類,方法,結果はまちまちであるため,本解析ではその内容の定義を明らかにメタ解析を行うことである.
研究デザイン メタ解析
エビデンスレベル Level I
治療環境・施設名  
対象患者 予定開腹手術患者
介入 術中・術後の輸液量(晶質液)
主要評価項目(定義) 術後合併症,在院期間
統計学的手法  
結果 減量輸液群と標準輸液あるいは自由輸液群の二群でメタ解析をすると有意差は認めなかったが,各論文の輸液量から適切な輸液量を設定し,適切な輸液量群と過剰あるいは不足群にグループ分けを行い検討すると,適切輸液群で合併症の減少と在院期間の短縮を認めた.
結論 周術期の輸液療法では,可能な限り水分出納ゼロを目標として管理するために適切な量を適切な時期に行うことが重要である.
コメント 各々の研究で輸液減量した群と輸液を多く投与した群の命名がことなり,そのことが周術期の輸液療法の内容を分かりにくくしている部分があるが,結果的に過剰輸液や脱水を起こさないような管理を行うことによって合併症と在院日数という臨床的な予後を改善できることを示している.
作成者 石橋 生哉
タイトル(日本語) 腹部手術時の目標達成値を設定して行った一般的輸液療法と少量輸液療法を比較した前向き無作為化試験
タイトル(英語) Conservative vs restrictive individualized goal-directed fluid replacement strategy in major abdominal surgery: A prospective randomized trial.
著者名 Futier E, Constantin JM, Petit A, Chanques G, Kwiatkowski F, Flamein R, Slim K, Sapin V, Jaber S, Bazin JE.
雑誌名、巻:頁 Arch Surg. 2010 Dec;145(12):1193-200.
目的 腹部手術時の目標達成値を設定して行った一般的輸液療法と少量輸液療法を比較し,脱水の有無,中心静脈酸素飽和度と術後合併症の相関について検討する
研究デザイン 前向き無作為化臨床試験
エビデンスレベル Level II
治療環境・施設名 Hôtel-Dieu Hospital, France
対象患者 消化器手術患者
介入 術中輸液量
主要評価項目(定義) 術後合併症
統計学的手法 t test,Mann-Whitney U test,Kruskal-Wallis H test,多変量解析
結果 術中少量輸液療法では,脱水の発生率が高く,中心静脈酸素飽和度も低く,縫合不全と術後敗血症発生率も有意に多かった.多変量解析では,脱水と最低中心静脈酸素飽和度が縫合不全と術後敗血症発生要因となった.
結論 術中に脱水に陥るような輸液管理では末梢への酸素運搬の障害をきたし縫合不全を含む合併症の発生率が上がる.
コメント 本試験ではERASに準じた周術期管理が行われた中で,術中の脱水と最低中心静脈酸素飽和度が縫合不全と術後敗血症の発生に相関するということは,術中の輸液管理においてより早期に脱水の補正などの適正化を行う必要がある.
作成者 石橋 生哉
タイトル(日本語) 目標設定血行動態療法と術後消化管合併症:RCTのメタ解析
タイトル(英語) Goal-directed haemodynamic therapy and gastrointestinal complications in major surgery: a meta-analysis of randomized controlled trials.
著者名 Giglio MT, Marucci M, Testini M, Brienza N.
雑誌名、巻:頁 Br J Anaesth. 2009 Nov;103(5):637-46.
目的 目標設定血行動態療法が術後の消化器合併症の予防に有効か否かをメタ解析にて明らかにする
研究デザイン meta-analysis
エビデンスレベル Level I
治療環境・施設名  
対象患者 腹部手術患者
介入 目標設定血行動態療法
主要評価項目(定義) 消化器合併症
統計学的手法  
結果 目標設定血行動態療法は術後の消化管合併症の発生を減少させるが,肝機能異常については影響を与え無い
結論 周術期における目標設定血行動態療法は,適切な酸素化を保つことによって,血流低下のリスクにある臓器を保護し,術後合併症を減少させる.
コメント 周術期の輸液療法において目標を設定して血行動態を保つ方法が,術後合併症の減少に寄与するというメタ解析の結果である.ERASでは術後薬物療法にて消化管機能の維持・回復をはかっているが,それ以前の重要なポイントとして挙げられる.
作成者 石橋 生哉

作業中2

日本外科代謝栄養学会
JAPANESE SOCIETY for SURGICAL METABOLISM and NUTRITION