新理事長挨拶 (令和4年8月)

亀井 尚

 東北大学大学院医学系研究科消化器外科学 教授


 このたび令和4年度第1回理事会にて、土岐祐一郎先生の後任として理事長に選任いただきました。本学会は、外科・救急およびその関連領域における侵襲学ならびに代謝・栄養学侵襲学の研究、臨床および教育を通じて国民医療の向上に貢献することを目的としています。これまで半世紀以上にわたって、外科侵襲・代謝栄養学において多くの知見を発信し、学問を牽引してきた本学会の伝統を再認識するとともに理事長としての重責を強く感じている次第です。
 本学会は1965年(昭和40年)に設立された「術後代謝研究会」に始まり、「外科手術前後における患者の代謝・栄養管理の研究成果を自由に討論する」ことを目的として第1回が開催されました。その後、1981年(昭和56年)第18回から「日本外科代謝栄養学会」に移行し、現在に至っています。この間、外科・救急の技術は著しく進歩し、またその治療成績も飛躍的に向上してきました。この成績向上は、手術手技・麻酔・集中治療の進歩はもちろんですが、周術期管理の発展によるところも非常に大きいものがあります。侵襲時の生体反応、代謝、免疫反応の科学的解明、またそれらに対する輸液、栄養、免疫、感染対策などの介入の成果が大きく貢献しており、今後もその重要性はますます高まるものと予想されます。また、救命される複雑な小児外科患者や高齢の癌患者が増加していること、術後のQOLを維持する観点などからも代謝栄養学の果たす役割は大きいものと考えます。一方、外科学の教科書ではいわゆる「総論」にあたるこの領域は、ロボット手術などの手技論に比べて、一見、華やかさに欠けるためか若手医師の興味が少なくなっている傾向が否めません。歴代の理事長、役員の先生方は、侵襲・代謝栄養学の衰退を懸念し、外科侵襲栄養学の裾野を広げるべく、多くの関連領域との交流を持ちながら、日本外科代謝栄養学会がその中心になって学問を高めてゆくことを期待されていました。私もこの路線を引き継ぎ、関係する様々な学会、研究会と連携しながら、本学会が外科代謝栄養学の発展に貢献できるように尽力していく所存です。
 昨今の侵襲学、代謝栄養学はさまざまな領域の知見が取り入れられ、学際的な展開が進んでいます。全ゲノム解析とpersonalized な生体反応、マイクロバイオーム解析と病態、サルコペニアの真の意義と適切な介入、口腔内環境の影響など、今後、治療体系を変えるような新知見が議論されていくことと思います。さらに、続く臨床研究で様々なエビデンスが構築され、臨床現場に還元されていくことを期待しています。基礎的な学問の重要性は普遍であり、これを欠いた医学の進歩はありません。今後も伝統を守り、本学会をさらに発展させていくために、会員の皆様のご支援・ご協力と積極的な学会活動への参加を、心からお願い申し上げます。






  本学会の歴史

1965年 外科手術前後における患者の代謝・栄養管理の研究成果を自由に討論することを目的に、 20施設(17大学と3病院)が参加して「術後代謝研究会」を設立した。
1981年 急速な会員増、発表演題内容の充実にともない、第18回学術集会より「日本外科代謝栄養学会(Japanese Society for Surgical Metabolism and Nutrition)」と改称した。個人会員制の学会に改組し、会則の整備をおこなった。機関誌も、プロシーディングス・スタイルの「術後代謝研究会誌」を原著論文中心の「外科と代謝・栄養」とした。
1983年 会則を改正し、1) 選挙による役員の選任と任期制を導入、2) 評議員の選考基準および評議員会の役割を付加した。
1984年 学会主要会員の協力を得て、田中 大平・近藤 芳夫 編集「外科代謝栄養学」(文光堂)を発刊した。
1988年 機関誌掲載の優秀論文に学会賞を授与することとなった。
1990年 学会25周年記念号を発刊した。
1993年 機関誌を隔月発刊とした。
1994年 本学術集会にInternational Sessionを設けた。
2000年 TPNビタミン検討委員会(岡田正委員長)が、ビタミンB1欠乏症の多施設臨床研究結果を報告した。
2001年 アジアの若手研究者を対象としたTravel Grant for Young Investigator制度を創設した。
2003年 学会賞に英文原著も対象となった。
2006年 第43回学術集会より、日本静脈経腸栄養学会との共催で、「NST医師教育セミナー」を開催した。
2009年 第46回学術集会より、日本アミノ酸学会との合同シンポジウム、およびJPEN推薦論文の募集を開始した。
2010年 学会主催の教育セミナーが開催された(第1回セミナー担当:千葉大学、織田成人先生)。